2010年3月29日月曜日

i-SIM News:036/土と風

こんにちは。仙台大学スポーツ情報マスメディア研究所(ISIM)の荒木です。2009年度も残すところあとわずか。皆さんは新しい進路や進級を控え、心の準備も一段落といった時期ではないでしょうか。新たな一歩を踏み出せば、多くの人との出会いが待っています。長い付き合いとなることもあれば、一期一会の人もいるでしょう。会う人一人ひとりとの触れ合いがお互いを磨き、ともに宝となることを祈念します。そこで今回は、勝田研究所長に出会いと別れ・人生の機微を伝えてもらいます。所長、お願いいたします。

◆土のヒト、風のヒト
北海道の北部に位置する美深町は人口5,200人の小さな町だ。日本の最低気温の記録(氷点下41.5℃)を持つ。町の公的事業としてオリンピアンを輩出しようと「タレント発掘・育成事業」が開始されたのは今から5年前(17年5月)のことである。この事業は同町で盛んに行われているトランポリン競技の子どもたちの中からエアリアル競技のメダリストを育てようとする種目転向型プロジェクトである。事業は、厳しい(町の)財政の中から約2,200万円かけてエアリアルのジャンプ台を建設するという計画からスタートした。さらに、オリンピアンを育てる機能を付帯させた総合型地域スポーツクラブも立ち上げた。そして、昨年12月には、子供たちの競技離れに悩む近隣の4市町村に働きかけ、モーグルやクロスカントリー、ジャンプといった冬季オリンピック種目の総合型タレント発掘・育成を目的とした上川北部広域スポーツクラブの設立も成し遂げた。

事業開始から5年。美深町は、今や、全国に知れ渡る町となり、その取り組みは文部科学省のモデル地域のひとつと認定されるまでになった。しかし、小さな北の町が先駆的な取り組みを行う困難は想像以上であり、関係者の血のにじむような苦労は今も続いている。
「新しい事業を興し推進するためには、 "風"と"土"の融合が大切だ」と美深町の(事業の)中心者たちは口を揃える。「風」は外部の情報やアイデアといった種を運んでくれるヒトを意味し、「土」はその種を辛抱強く大切に育て、根づかせる地元のヒトを意味する。
美深町と連携協定を結び深く交流する私たち仙台大学の関係者は、美深町にとって「風のヒト」にあたる。「仙台大の人たちは、美深にとって大切な風のヒト」だと美深町の「土のヒト」そのものであった市名氏は言っていた。
3月11日、その市名氏が突然他界した。エアリアルジャンプ台の建設に奔走し、スポーツクラブの設立に粘り強く取り組み、そして私たち「風のヒト」をいつも温かく迎えもてなしてくれた、雄大な北の大地そのもののような「土のヒト・市名鉄夫」が、美深の豊かな土に帰った。
美深の春も近い。雪に覆われた大地の下で育てられた新しい息吹が、伸び伸びと力強く姿を現す日も近い。飾ることなく、純粋にスポーツと人を愛し、そしてただひたすら町の発展に力を注いだ市名鉄夫が、その豊かな大地に(眠って)いる限り、美深町にはこれからもスポーツの発展に欠かせない多くの風が集まるに違いない。そして、市名氏が愛した北国の深く美しい町は、日本のスポーツモデルとして、さらに発展していくことだろう。仙台大学も、その発展に貢献できる「風」であり続けたい。
地域から求められる「風のヒト」と、地域に根付く「土のヒト」を育てること、そして風と土が互いに尊敬しあい融合していくことの大切さを、市名鉄夫は私に教えてくれた。

〈編集後記〉
大学は卒業式が終了し、学生も長期の休み中とあって静かな時間が流れていました。しかし、春の息吹が感じられる現在、入学式やその後のオリエンテーションの準備が始動し、間もなく若いエネルギーが躍動する季節となります。みなさんも"エンジン全開"で元気な毎日をお過ごし下さい。isim2008@scn.ac.jp(荒木)