204の国と地域が参加したロンドンオリンピック。 日本は史上最多38個のメダルを獲得し、 チームジャパンの新たな姿をみせた。 日本が初めてオリンピックに参加してからちょうど100年の節目 。世界のスポーツは確かに「進化」し続けていた。(仙台大学講師 阿部篤志)
多くの日本人を寝不足にしたロンドンオリンピックは、 21世紀の新たなスポーツの基準を示すオリンピックであった。 史上初めてすべての競技に女子選手が参加した。 ユースオリンピックに参加したヤングオリンピアンが「本物の」 オリンピックに参加する初めての大会でもあった。 そのオリンピックをホストしたイギリスは、 開会式や閉会式で同国の文化の懐の深さをみせたが、 国際競技力向上の面においても、 開催までの7年間における戦略的な取り組みを通じて大きな成果を あげた。
多くの日本人を寝不足にしたロンドンオリンピックは、
イギリスは2004年アテネオリンピックで、金メダル9個、 総メダル30個を獲得して、 金メダル獲得数ランクで世界第10位であったが、 翌2005年のIOC総会(シンガポール) で2012年ロンドン大会招致を決めると、 様々な取り組みを戦略的かつ組織的に押し進め、 2008年北京大会では金メダル19個、 総メダル47個で世界第4位に、 そして2012年ロンドン大会では金メダル29個、 総メダル65個を獲得して世界第3位となった。
一人のアスリートがメダルを獲得することは、 ロンドンでの内村選手の演技をみても容易でないことが分かる。「 いつも通り」にはなかなかいかない。それでも結果として、 イギリスが図のように着実にメダル獲得数を伸ばした背景には、 潜在的にメダル獲得可能な競技種目やアスリートの数を増やすとと もに、 そのアスリートがオリンピックという4年に一度の舞台でより確実 に結果を出すことができるようにするための取り組みへの、 チームGB(英国チーム)の弛まぬ挑戦と努力が生んだ「総合力」 があった。
エリートスポーツの統括組織であるUKスポーツは、 ロンドンオリンピックに向けた「No Compromise(妥協なし)アプローチ」 のコンセプトを打ち出し、 各競技団体の取り組みを推進するための評価システム「 ミッション2012」を実施。競技団体が四半期に一度、 評価と改善を繰り返しながら確実に前進できるよう、 UKスポーツは戦略的なイニシアティブをとった。 また具体的な取り組みとして、イギリススポーツ研究所(EIS) や民間組織、大学等と連携しながら、包括的な医・ 科学支援やタレント発掘・育成、研究開発などを展開した。
UKスポーツのリズ・ニコル最高執行責任者は大会終了後、「 記録を更新するようなメダル獲得と同じくらい、 とても多くの競技種目が勝利の方程式を見つけたことに大きな価値 がある。 2016年リオオリンピックに向けてこの勢いを維持する自信を持 っている」と総括した。
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日本は本大会で、メダル獲得競技数を前回大会の「5」から「 10」へと倍増させた。ニコル女史の言葉を借りれば、 日本もイギリスと同様に「勝利の方程式」 を見つけた競技の数が大幅に増えたことが、 本大会における最大の成果だったと言える。 この方程式は一昼夜にして導きだせるものではなく、 休みなく続く挑戦と努力の過程において見いだされていくものに他 ならない。ただそこには一種の「賢明さ」が必要であり、 そのためにチームジャパンはいま、 先を見据えて情報を扱う意識と行動を重要視している。
本大会においても、 村内外の現地スタッフと東京の後方支援チームが一体となって、 アスリートやコーチの最後の一歩を支援するとともに、 4年後に向けた準備と検討のための情報活動( 東京Jプロジェクト2012)を実施。 大会最終日には総括レポートがまとめられた。 2002年に開始されたこの活動は、10年を経て着実に進化し、 チームジャパンは大会ごとに「賢明さ」 を獲得しているようにも思える。
それでも、世界は日々動いており、チームジャパンも、 そこに関わるすべての一人ひとりも、 日々謙虚に賢くなっていく必要がある。 関わる人材が多様になった分だけ、どのような力を発揮本学(科) を卒業した学生がそのような道を歩んでいくことを鑑みれば、 大学時代にどれだけその基礎体力を身につけられるかがとても大切 になる。
私は「アスリート」を「挑戦し続けることに覚悟する人」 と定義しているが、 同様にそれを支える情報スタッフもその覚悟が必要になる。 何事も覚悟して挑むことは容易なことではない。しかしながら、 東京・ 銀座で行なわれたメダリストのパレードに集まった50万人とも言 われる人々の熱狂を目の当たりにして、 スポーツの持つ力を再認識させられた瞬間、「もう一度」 を実現するために、アスリートのみならず、「情報」 も覚悟して臨むことができるのかどうか、 自問自答せずにはいられなかった。そして、 ソチ2014やリオ2016に向けて、 学生とともにさらに成長するために、 後期授業の始まりが待ち遠しくなった。
皆さんはロンドンオリンピックをどのようにご覧になっていただろ うか。
仙台大学 講師
阿部篤志
(東京Jプロジェクト2012メンバー)