2013年3月6日水曜日

i-SIM News 119/「FMあおぞら」多言語放送への取り組み

 今回のi-SIM Newsでは、私が関わってきた亘理町「FMあおぞら」の多言語放送の取り組みを紹介しながら、社会におけるマイノリティの言語とメディアの役割について考えていきたいと思う。(ISIM リン・イーシェン 研究員)
 2011年3月に起きた東日本大震災をきっかけに設立された臨時災害放送局「FMあおぞら」(亘理町、79.2MHz)は、町内在住の110名ほどの外国人住民のために同年の夏から多言語放送を提供しはじめる。私はスポ情の学生で亘理町在住の大友晃貴くんの紹介で2012年の4月からボランティアとして制作を引き受けることになった。しかし「多言語」とはいえ、すべての言語に対応できるわけではなく、実際のところ外国人住民の出身国と言語状況を考慮し、こちらでなるべく対応できる協力者を見つけて対応することに落ち着いた。そこで周りの友人と学生たちに打診をした結果、ゼミの4年生と韓国人留学生、そしてワシントンの研究機関で上級研究員を務めた経歴を持つ沖縄在住の友人が快く引き受けてくれた。こうした体制のもと毎月四カ国語(日本語、英語、中国語、韓国語)で亘理町の医療や罹災関連手続きから、農作業や生活情報までさまざまな内容を翻訳し、録音と編集の作業を行っている。現在は毎日午前9時45分から15分ほどの時間帯で放送されている。
 こうして作られた多言語放送番組はまもなく一年目の終わりを迎えようとしているが、そこで感じたこと、考えたことを少し書き留めたい。「多言語放送」はだれのためのものなのか、という本質的な問題について私は常に考えている。そもそも多言語放送の目的は、震災後の大きな環境変化によってもたらされた不安を和らげ、外国人住民が平穏な生活が送れるための助けになると位置づけられている。そこで自治体の広報誌を主な情報源とし、罹災証明や放射線量の測量報告、予防接種や相談窓口、図書館や公民館の利用時間などの公式情報を提供してきた。しかし、震災前の生活リズムを徐々に取り戻した現状を見て、今後は外国人住民と地元コミュニティとの交流を手伝うような役割も期待されるようになるのではないかと考えている。そこで行政や自治体の情報を一方的に伝達するのではなく、双方向的な番組作りの取り組みも視野に入れて再度「多言語放送」の意味合いを考える必要が出てくると思われる。
 実際、多言語放送を引き受けた当初、「外国人の日本語学習を妨げ、怠けさせてしまうのでは?」という周りからの冷たい反応があった。しかしそういった意見は、言語は単に意思伝達の道具にすぎないと見ている傾向があり、多言語による文化交流の可能性を見過ごしているように思う。「多言語」とは、単なる言語の種類や数を意味するのではなく、その言語に代表される文化や価値観の多種多様な部分、すなわち多文化的意味合いも含まれている。そこにフォーカスし、異文化間の相互理解と尊重をはかり、共生していける地域づくりに貢献することこそが多言語放送、そして地域に根ざすFMラジオの役割ではないかと考える。こうした目標や理想に近づけるには、これまで情報を一方的に受け取ってきた外国人住民による参加が必要不可欠である。もちろんこれまでラジオ電波の向こうにいる名も顔も分からない彼ら/彼女らに登場してもらうのはそう簡単なことではない。しかし地域住民が協力しあい、顔の分かるコミュニティ作りを目指すにはこれこそ重要なことであり、そしてこうしたつながりが災害時にも活かせるのではないかと考えられる。外国人住民が自らの視点から重要な情報を取得し、それを自分たちの声でリスナーに伝え、そして意見も臆せずに発していくことによって多言語、多文化的なコミュニティ公共圏作りを目指す。つまり、当事者による当事者のため、地域のための多言語放送を実現することである。もちろん不慣れな部分や番組の取材・制作における難しい部分は、ボランティアや有志に協力してもらえる仕組みが必要である。そこでなによりも重要なのは地域における連帯の意識ではないかと思う。
 上述のことはこの一年間、多言語放送の翻訳と音源の編集をしながら常に頭のなかで考えていること。それを実現や実践していくには大きな決意と改革が必要と思われるが、もし実現する可能性があるならば、できる限りの協力をしていきたいと思う。